第1巻が400字詰め原稿用紙30枚の短編で、それを2011年から不定期に開催されている、『リーディングシアター(朗読劇)』用の脚本に書き換えたら人気作品となりました。
それを2018年11月に開催された、【第27回 文学フリマ東京】用に書き直し、文庫サイズで100ページ作品にしたら、続編希望のお声を頂戴したので、今回、第2巻を頒布します。
【立ち読み】
清明神社の広大な境内の一角に、立派な二階建ての建物がある。
【安倍晴明 図書館】。
そこには、貴重な文献や資料から二次創作まで幅広く『安倍晴明』に関する書物が集められている。
入館料は千円で、チケットを見せれば開館から閉館まで途中退室、再入室可。
館内は飲食禁止だけれど、隣の建物はカフェなので小腹も満たせる。
今も根強い『晴明ファン』には至れり尽くせりの一角だ。
今は昔……なくらい、その空前の大ブームが何年前だったかすぐには思い出せないくらいの年月が経っているというのに、『平安時代の稀代の大陰陽師・安倍晴明』は一定の人気を保っており、全国からの参拝者は細く長く絶えずに今に至る。
太く短い『大ブーム』でガツンと稼いで終わるのではなく、その先も細く長く『人気の神社』として存続させるため、安倍晴明の直系であり代々神社を守っている一族のなりふり構わぬ努力も功を奏しているんやな……と、初めて訪れた図書館の入口にて花梨はその商魂のたくましさに感心していた。
花梨は入館料を払って図書館へ入った。
館内案内図を見ると、文献や資料のコーナーは小さく、同じ1階には安倍晴明をモデルにした商業出版ものが集められており、2階は二次創作のみという分け方だった。
花梨は迷うことなく、文献コーナーへと向かった。
この修学旅行では、【安倍晴明 図書館】にて日本の魔術のひとつである『呪術』を調べ、西洋の『魔術』と何が違い、どこが似ているかを比較する論文を提出することにしている。
――いうまでもなく、そんなのは建前で、本来の目的は、安倍晴明の末裔が『安倍晴明』を名乗るだけではなく、呪術も使えるという都市伝説が本当かどうかを確かめること、だ。
(略)
1階の文献コーナーには、誰もいなかった。
独りが好きな花梨なので、この状況には心底ほっとした。
貴重であろう数々の文献は、斜め読みでも惹きこまれる。
思わず集中して立ち読みをしていたことにさえ気づかなかった花梨だが、不意に背中を力強く叩かれて我に返った。
「――っ!」
突然の出来事に、声も出なかった。
何事かと振り返ったら、見るからにチャラチャラした服装の男が居た。
高校生か大学生かと思われるが……チャラい服装とは裏腹に、目つきにだけは油断ならぬ鋭さと驕りが見え隠れしていた。
「……」
花梨も素の自分で対峙した。
「見かけない服装。修学旅行?」
チャラい服装に見合ったチャラい喋り方……なのに、目つきがそれらを見事に裏切っていることに気付いた花梨は、直感で、ひょっとしてこの男が末裔の『安倍晴明』なのではないかと思ってしまい、警戒する。
「――せや」
言葉少なく肯定した花梨に、チャラ男は驚いた。
「え?」
なんや?とは訊き返さず、花梨は胡散臭そうな目でチャラ男を見る。
「イントネーション……関西の人?」
「関西人が京都へ修学旅行来たらおかしいんか?」
「おかしいねぇ~。関西人が通う関西の学校なら、修学旅行先が関西にはならないから」
笑われて、花梨はぶすっとした。
言われてみたら、その通りだった。
「……」
「まっくろくろすけを連れてたくらいだもんな。関西人だけど京都には疎い地域からの修学旅行生だな」
「……まっくろくろすけ?」
それ自体は知っているけれど、何故、アニメに登場する煤の妖怪を連れているなどと言われる?
ますます警戒心をあらわにする花梨さえもおもしろがっているような様子でチャラ男は答える。
「ここに来る前、金比羅さんに行ってきただろう?」
「……」
正解、だった。
「金比羅さん特有の、女たちのよろしくない念の塊が、大小様々な大きさの『まっくろくろすけ』状態で背中にくっついていたからさ」
「……」
「地元の女なら、金比羅さんの正しい参拝の仕方を知ってるから、
何かを連れて出て来るなんてことはまずない。そんな命取りにもなりかねないヘマはしない」
「……」
「大抵の観光客は表面の綺麗ごとだけを鵜呑みにしてるから、ヤバイのを平気で連れ出してしまう」
「……」
「観光客が連れてきてしまう『念』のカタチは人それぞれで、たまたま、あんたの場合は、見た目が『まっくろくろすけ』なだけだったんだけど、不思議なことに――」
「……」
花梨は顔色一つ変えない。
「……金比羅さんから連れ出した『念』が、あんたに懐いてる感じ、だったんだよな」
「……」
「例えるなら、同病相憐れむ、みたいな」
「……」
「そして、あんだけ重たいモノを背負ってたのにどこにも影響を受けていない」
「……」
「それと、入館して配置図を確認したらまっすぐこの文献コーナーにやってきた」
「――よう見てんなぁ。別にうち、アヤシイ者ちゃうで」
「充分、怪しいだろ。国文学専攻の大学生がこの文献コーナーに来るのは、わかる。実際、一年を通じていろんな大学から学生が来てるからな。でも、あんたは違うだろ」
「……」
「あんた、何者?」
「……」
それでも花梨は顔色一つ変えず、目も反らさずその場に佇んでいる。
花梨は一息ついてから、手にしていた書物を本棚に返した。
意地の悪い笑みを隠すことなく、チャラ男に答える。
「うちは、そこらに居る普通の女子高生や」
・2019年5月6日 初版発行
小説/文庫サイズ/120ページ/1,000円(イベント価格)/1,300円(通販価格)
(時々1位!ありがとうございます)
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