ココロのつぶやき@はてなブログ

南の島からの帰国子女で作家。2005年『講談社X文庫新人賞』受賞。現在、『文学フリマ東京』を軸に作品を発表中。

<立ち読み>あなたの願い叶えます。ただし……

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完売

しております<m(__)m>

 

元々このお話は、400字詰め原稿用紙で30枚の短編でした。

 

ありがたいことに好評でして、2011年から不定期に開催されている『リーディングシアター(朗読劇)』の脚本執筆依頼にも繋がりました。

 

ありがたいことです。

本当に。

 

短編小説をリーディングシアター用の脚本に書き換え、新人声優さんから大御所声優さんまでいろんな方に演じてもらい、未だに再演の声を頂戴しております。

 

再演実現を夢見つつ、今回、新たに【第27回  文学フリマ東京】用に書き直し、文庫サイズで100ページの作品となりました。

 

 

【立ち読み】

 

序章

 

「Ⅰ……Ⅱ……Ⅲ……Ⅳ」

 

月明かりがかすかに差し込む窓際のテーブルで、中世ヨーロッパの『魔女』を連想させるような全身黒づくめでばっちりと化粧を施した妙齢の女が、奇妙な絵柄が人目をひくカードを、一枚一枚順番通り丁寧に並べている。

 

草木も眠る丑三つ時。

 

室内外で物音ひとつしないこの場所は、内装が内装だけに、どこかしらひんやりとした独特の空気を醸し出している。

 

ここは、彼女が主人を勤める小さな店。

 

提供しているモノは、『気休め』。

 

#002

 

あの三日月を武器にできたら、証拠を残さずにミナゴロシ可能よね……。

 

冴え冴えとした夜空に浮かぶ、鋭利な刃物のような上弦の月を見上げながら、美咲は栓無き事だと自覚しつつもそんなことを渇望していた。

 

(略)

 

「どうしたん?」

 

やっぱ怖気ついたか?とKARIが言外に匂わせているのを敏感に感じ取った美咲は、自己紹介はナシで、気になっていることを先に明確にしてしまおうと決めた。

 

「えっと……無料……ってわけじゃないんでしょ?」

 

「も~ちろんや。世の中、タダほど高くて怖いモンないで」

 

「――ぶっちゃけ、いくらかかるの?」

 

何事にも『対価』が必要、という現実に、美咲は一体いくらふっかけられるのだろうかと多少心配になってきた。

 

高校生だから貯金なんてあまりない。

 

だけど、お金なんて、その気なればどうにでもなるハズ。

幸い、通っている高校はアルバイト禁止ではないので、何年かかってもきっちり払おうと腹を括った。

 

さあ、いくらでもいいから提示してみてよ!と、美咲は言葉にせず全身で訴える。

 

その意気込みが伝わったのか、KARIは頼もしそうな笑みを浮かべた。

 

「うちが報酬として貰ってるんは、『カネ』やのうて『結末』やねん」

 

「――はっ?」

 

今、何を言われたのか理解できなかった美咲は、もう一度問い返した。

 

「今、なんて……?」

 

「この距離で聞こえへんかった?アンタ、耳、悪いん?」

 

「いや……そういうわけじゃなくて……」

 

「……まぁ、ええわ。人それぞれ、事情、あるし」

 

「いや……だから、そういうわけじゃな――」

 

「うちが報酬として貰ってるんは『カネ』やのうて『結末』やねん」

 

さっきより気持ち声を大きくし、発音も明瞭さを意識したKARIの言葉は、一言一句同じだった。

 

「あ……うん、ありがとう……」

 

やはり、聞き間違えではなかったのか――。

 

「でも、なんで?」

 

報酬が『金』ではなく『結末』だという意味がわからず、美咲は首を傾げながら尋ねた。

 

「うち、別に金に困ってへんし、興味もないねや」

 

「……?」

 

「うちな、自分が関わった件が『成功』にしろ『失敗』にしろ、どないなったか知りたいねん」

 

「……」

 

聞き捨てならない内容に、美咲は胡散臭そうなまなざしをKARIへと向けた。

 

「……ちょっと、『失敗』ってなんなのよ?『あなたの願い、叶えます』なんじゃないの?」

 

「あんた、見かけによらずいらちやなぁ~。そうコワイ顔しなさんなって。話は最後まで聞くモンやで」

 

「……」

 

「例えば、『ピサの斜塔』。知っとるやろ?」

 

「……知ってるわ」

 

「アレ、斜めになったから『失敗』やと思う人もおれば、斜めになったからこそ『成功』やと思う人もおる。どっちが正しいかなんて、断言できんやろ?それが価値観っちゅーモンちゃうか?」

 

「……確かに、一理あるわね」

 

「せやから、迎えた結末を『成功』と思うか『失敗』と思うかは、依頼主によって全然ちゃうねん。それでも必ず物事には一区切りつく時っちゅーのがあるさかい、それを『報酬』として教えてくれ、っちゅーとんねん」

 

「――そんなコトでいいんだ……」

 

法外な金額がかかることも覚悟した直後なだけあって、美咲は心底ほっとしていた。

 

そんなコトでいいなら……、と完全に美咲の気は緩み、KARIに対する警戒心も消滅していた。

 

「商談成立やな。おおきにっ!」

 

KARIは満面の笑みを浮かべながら美咲の手を掴んで、ぶんぶん振った。

 

「え?あ……ちょっと!」

 

あからさますぎる『魔女』の外見からは想像もつかないその子供っぽい笑顔と態度に、美咲はどう反応したらいいのか戸惑いを隠せずに苦笑いで応じた。

 

ひとしきり喜びを示した後、KARIはそのおちゃらけた雰囲気の余韻を残すことなく空気を切り替え、研ぎ澄まされた刃のような雰囲気を身に纏って美咲に尋ねた。

 

「で、どんな『願い』を『叶えたい』ん?」

 

 

・2018年11月25日 初版発行

小説/文庫サイズ/100ページ/1,300円(税込)

 

 

(2018年11月  『第27回  文学フリマ東京』にて)

 

 

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