【立ち読み】
血まみれ女――万凪(まな)――を背で庇うように少し移動しながら、呆然自失の芽衣(めい)へ晴明(せいめい)は言った。
「イタコ……あんたが、この女を殺したのか?」
「……」
芽衣は答えない。
ただただ、驚きと共に万凪を見ている。
「周りくどいのは好きじゃないんで先に言っとくけど、彼女は先日、京都でメッタ刺しにされて殺された被害者だ」
「……」
芽衣は何か言おうとしたが、うまく言葉が出てこない。
『魔女』は興味深そうに三人を眺めている。
「六道珍皇寺で会った時に、言ったよな。夜の京都は魔界だ――って」
「……そういえば、そんなこと、言ってたわね――」
芽衣は必死で平静を保とうとしながら言葉を返した。
「京都で起こる殺人事件のうちの何割かは、魔に魅入られたか魔が差した……つまり、現世を生きる生身の人間が絶対に関わってはならない闇の世界のチカラを借りたヤツなんだよ」
「……」
「負の念が強ければ強いほど、禍々しい現実を創り出すことができる。――実際に、丑の刻参りや藁人形で呪い殺された事件もちらほらある」
「……」
「京都で不可解な殺人事件が起こって、警察が煮詰まると、たまに協力要請がくるんだよ」
「――陰陽師に?」
「そ。寺社パトロールも、その一環」
「……」
芽衣は悔しさに唇をかみしめた。
ふつふつと怒りがこみあげてくる。
「――知ってたのね」
芽衣は、晴明がさりげなく背中で庇っている血まみれの女――万凪――に向かって憎しみを込めた声で問うた。
会うなら京都で会いたい、と場所指定してきたのは――万凪だった。
「答えなさいよ!万凪!あなた、警察と陰陽師の関係を知っていて京都をしたんでしょっ!そして死後、陰陽師に助けを求めた――」
芽衣が怒りにまかせて数珠を握りしめた時、声にならない声で万凪が叫んだ。
【嘘つき、嘘つき、嘘つき!視えなくても問題がないなんて、大嘘!口寄せ能力も低く、視えもしない現状を打破したいって言ってたじゃない!】
「うるさいっ!」
【嘘つき!イタコとは名ばかりなことがバレて追放されそうだったから、わたしを騙した!時間をかけてわたしを信用させて……最初からわたしを殺すつもりだった!】
「うるさい!うるさい!」
【チカラのある者が視れば、芽衣のチカラなんて無いに等しいことくらいすぐにわかる!】
「うるさい!」
【――『マナ』は神秘的な力の源とされる概念で実体は持たないけれど、確かに存在している神聖な力で、自ら所有者を選んで憑くから……わたしを殺したところで『マナ』のチカラを手に入れることはできないことだって知ってたのに――】
万凪は血の涙を流しながら、叫んだ。
【なぜ……わたしを……殺したぁー―っ!】
彼女の怒りが突風を起こし、テーブルにある軽いメモ用紙やが風に乗って散乱した。
「……誰が片付けんねん」
『魔女のボヤキは、周囲の音にかき消されていた。
晴明は、自分の周りに結界でも張っているのか、涼しい顔で見守っている。
・2019年11月24日 初版発行
小説/文庫サイズ/120ページ/1,000円(イベント価格)/1,300円(通販価格)
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