ココロのつぶやき@はてなブログ

南の島からの帰国子女で作家。2005年『講談社X文庫新人賞』受賞。現在、『文学フリマ東京』を軸に作品を発表中。

<立ち読み>愛奈 穂佳 短編集ー怪ー

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【目次】

・#001  いろはのいーちゃん

・#002  まどか

・#003  寿美子の探し物

・#004  三十秒の案内人

 

 

【立ち読み】

 

【いろはのいーちゃん

 

いつもの道をいつものように歩いていたら、不意に背後から声をかけられました。


「ねぇねぇ~。ねぇ~ってばぁ~!」


人懐こい少女の声で、いきなりなんだ?と思った私が驚きながら振り返ると―― 私は思わず我が目を疑いました。


確かに普段着姿の幼い少女がそこに居ました。


何故か彼女は、頭に枯れた榊の葉を乗せていました。


森の中とはいえ、屋外なだけあって、多少はひんやりとした風が吹いているというのに、彼女の頭上の枯れた榊の葉は微動だにしていません。

 

まるで帽子でもかぶっているかのように......彼女の頭の上にちょこんと乗っています。

その時点でオカシイです。


ヒトではないな、と思って私が警戒していると、

 

「全然遊びに来てくれないから、呼びに来たのぉ~。ねぇねぇ遊ぼうよぉ~。遊んでよぉ~!」

と、少女が言いました。


「アンタとは遊べないし、遊ばないから、帰って」


私は敢えて冷たくにべもない言い方をしましたが、少女は怯みません。


「えぇ~!遊んでよぉ~!」


「帰って」


「……」


「帰れって言ってんのっ!」


「……」


少女はふてくされた表情で回れ右をしました。


私も回れ右をしてその場を移動すれば良かったのですが、その時の私は何を思ったのか、思わず少女に声をかけてしまっていました。

「あんた、誰?」


「?」


「名前は?」


後ろを向いていた少女は、弾むように振り返り、満面の笑みを浮かべながら即答しました。


いーちゃん。いろはのいーちゃん


「……は?」


首を傾げた私に、にんまりと不気味な頬笑みを浮かべながら彼女は続けました。


「いろはにほへと ちりぬるを
 わかよたれそ つねならむ

 うゐのおくやま けふこえて

 あさきゆめみし ゑひもせすん」

 

 

【まどか】

 

中途半端に焼け残っている一軒家に通い始めてから、今日で四十九日目。

 

もし、今日で決着つかなかったら...あたしはこの音楽業界を、去る。


それが『逃げ』なのか、『責任をとる』ことになるのかわからないけれど……、目に見えるカタチでのアクションとしては、それしか思い浮かばないから……。


それくらい強い決意なんだと言うことを伝えたくて、あたしは今夜も声を張り上げる。


「ねぇ、まどか。居るんでしょ?聞こえてるんでしょ?聞こえてるから、ラップ音とかそこらへんの瓦礫とかぶつけてくるんでしょ!」


ピシッと空気が妙な音を立てた。

 


『うるさい!しつこい!いい加減、気付け!いくらお姉ちゃんでも、同業者は信じないって前から言ってんじゃん!』


怒りやイライラの波動が伝わってくる気がする。

 

間違ない。

 

視えないけど、今日も妹はココにいる。

 

……たぶん、心残りで離れられないんだと思う。


妹の魂を自由にしてあげたくて、あたしは想いをコトバにする。


「あたしだって、業界で騙されたり嵌められたり、嫌な思いもしたことあるから、まどかの安易に同業者を信じられない気持ち、わかるよ?」

 


『わかるなら、構わないでよっ!あと少しで完成だったのにっっ』

 


いきなり突風が吹き、あたしはよろけた。


「まど……か……?」

 


『あと少しで完成だったのに……あと少しで完成だったのに……待ちに待った初めての大仕事だったのに……』

 


風が……空気が……哭いているようで……やりきれなくなる。

 


『あれは私の作品!誰の手も加えさせない!みんな狡いから、絶対、自分の名前に名義書き換えて商売にしようとするよ!そんなの、絶対、嫌だ!許せない!あれは『未完』なんだから、あの曲は未完のまま、誰の目にも触れなくて、いい!』

 


不意に、ぽつり……と冷たい滴が落ちてきた。

 

雨かと上を見たら、焼け残りの天井の隙間から綺麗な満月が見えた。

 

……妹の泪か、と胸がしめつけられた。

 

 

 

【寿美子の探し物】

 

「大学は日本にするん?」


「まだ決めてないし、ちゃんと考えてない。あたし、やりたいコトあるし」


「何やりたいの?」


「音楽」

「音楽?」


意外だ、という表情で長男の伯父が訊いてきた。


「歌?楽器?民族的なもの?」


民族的なもの……?


あたしは心の中で苦笑してしまった。


かれこれもう5年程、あたしは親の都合でインドネシアの首都・ジャカルタに住んでいる。


インドネシアと言えば、おそらく『バリ島』くらいのイメージしかない『オトナたち』なので、何度説明しても、時間が経てば、彼らの中では、ウチの家族はのんびりしたリゾート地で現地の人たちに溶け込んで芸術活動をして暮らしている、という先入観イメージ
に戻ってしまうらしい。


「いや、何度も言ってるけど、ジャカルタは首都だし、都会なんだってば!東京とか大阪とかと同じ!」


「でもさ、インドネシアやろ?」

「うん」


アメリカでジャズ、とか、ヨーロッパでクラッシックに目覚めた、とかならわかるけど、インドネシアで何に目覚めたん?インドネシアの有名な音楽って、なんかあったっけ?」


『オトナたち』は、興味津々なまなざしであたしを見ている。
インドネシアには伝統音楽もあるし、ガムランも有名です!」


「あ、そうなん?」


ガムラン?聞いたことないなぁ~」


「でもね、あたしがやりたい音楽は、J-POP。シンガーソングライターになりたいの」


「え?J-POP?」


「シンガーソングライター?」


「自分で歌詞書いたり、曲作ったりするあれ?」


「――あらまっ!」


すごい!とか、ほんまに?とか、中年男女が口々に驚く中、年若い女の声が混ざったのを、あたしは聞き逃さなかった。


しかも、咄嗟に出たであろう言葉が「あらまっ!」ってどんな人?と気になり、声がした茶の間の出入口に視線を移してみた。


すると、少しだけ開かれた引戸からそぉーっと中の様子を窺っている、見慣れないコとしっかり目があった。


そのコはあたしをとらえてギョッとした表情になった後、大慌てでくるりと踵を返した。


(え?何その反応?なんで脱兎のごとく逃げるかな?)


別に気分を害したわけではなく、純粋に彼女の言動が気になったあたしは、『オトナたち』に「ちょっとトイレ」と言って茶の間を出た。


「ねぇ、ちょっと待って!」


電気がついていない、薄暗い部屋の先にある2階へ続く階段を上ろうとしていた彼女は、あたしの呼びかけに足を止めた。


あたしは小走りで近づき――絶句した。


(え?嘘!!なんで?)

足は止めたもののこちらを振り返らない彼女の後ろ姿を見て、あたしは理解に苦しんだ。


彼女は、華やかな着物姿、だったのだ。


「――『喪服』の試着をしてた、って言うのならわかるけど.……なんで……?」


あたしは呆然とつぶやいていた。


「……」


彼女は振り向きも即答もせず、ややあってからなんでもないような口調と声音で返した。


「この着物、気に入ってるんよ」


「――は?」


「今風に言うたら、『勝負服』?」


「――?」


このコ何言ってんの?と奇妙に感じたあたしは、反応に困ってしまった。


それを知ってか知らずか、彼女は続けた。


「それに、今しばらくは皆、自分のことしか見えてないから......大丈夫」

「……」


「自分以外の誰かの姿や行動は、目に映ってるだけで、いつものようにきちんと認識できてる状態やないから、――誰にも見つからへんわ」


「――」


言ってることの意味が分からず、かといって、無言で逃げ出すようにこの場から離れることもできず、あたしは途方に暮れてしまった。


そうしていると、ゆっくりだけれど唐突に振り返りながら、彼女は言った。


「美子(みこ)、今年はえっらい到着早かったね?どうしたん?」


あたしは彼女をまじまじと見たけれど、誰だか分からなかった。


(年齢が近そうな従姉妹で、こんなに品があって美人の部類に入る人、いたっけ?)


一度会ったらまず忘れないであろう独特な雰囲気なのに…….と思うのと同時に、


「――なんであたしのコト知ってるの?……ごめん、あたしは貴女が誰かわからないのに」


と、あたしは率直な思いを口にした。

彼女は可笑しそうに笑いながら答えた。


「知ってるに決まってるやないの!総勢何人かわからんくらいの大所帯の中で、唯一、海外暮らししてるんやから!」


「――あ、なるほど。それで.……か」


あっさり納得して多少警戒心を緩めたあたしの傍らで、彼女は階段に腰を下ろした。


「で、なんで、今年に限って到着が早かったん?偶然?」


祖母が亡くなってしまった今、もう誰にも隠す必要はなくなったので、あたしは壁に寄りかかりながら答えた。


「実は、おばーちゃんが倒れて余命3カ月だって言われた時、おばーちゃんにはそれは伝えない方向でってことになったから、万が一に備えて、誰にもナイショで一時帰国することにしたんだ。ウチの家族」


「え?あの時から日本に居たん?」


「うん」


彼女は目を丸くした。


「が……学校は?」

「休学」


「――っ!」


思いきり驚かれて、何故かあたしはバツが悪くなってしまった。


「学校なんてどうにでもなるし、どうでもいいんだ。あたしもおかーさんもおばーちゃん大好きだから」


「……」


「おばーちゃんに残された時間が短いと確定されたからには、おかーさんにしてみれば嫌だろうけれど、それでも、親の死に目には会いたいだろうし、海外に住んでたら、何かあっても飛行機都合ですぐには駆けつけられないから必要以上に心配になるし、気になって気になって何も手につかなくって日常生活に支障でまくると精神衛生上よろしくないのが目に見えてたから、迷うことなく、おばーちゃんの近くで生活しようってことになったの」


「……ワイルドやな……」


あからさまにドン引かれてしまい、あたしは苦笑するしかなかった。


「どこに住んでたん?」

「隣町」


「――え?ほんまに?」


興味津々なまなざしになったり、ドン引いたり、驚いたり......彼女の表情はくるくる変わる。

 

それが愛らしく見えるので、仲良くなれたらいいな……と思うようになっていた。


「確かに、そこそこの親戚がこの街だったり隣町だったりご近所さんに住んでいるけれど、おかーさん、嫁に行くまで地元だったから土地勘あるし大丈夫って自信満々だった」


「――ほんま、相変わらずワイルドな性格やな……」


「おばーちゃんに似たんでしょ?」


「せやな」


あたしたちはたぶん、お互いに祖母の事を思い出していたから泣き笑いに近い表情になってしまったんだと思う。

 

このまま沈黙が続くと、少なくてもあたしは泣きだしそうだったので、話題を変えた。


「で、話変わって話戻すけど、名前、教えてくれる?」

「寿美子(すみこ)

「――――はっ?」


あたしは素ですっとんきょうな大声をあげてしまった。


何故なら、『寿美子』は、祖母の名前なのだ……。


「……マジで?」


人のコトは言えないくらい全力でドン引いてしまったあたしに、『寿美子(すみこ)』は言う。


「そんなに驚かんでも……」


「……あ、いや、うん、え……あ、ごめん」


あたしはわけのわからないことをしどろもどろに口走っていた。


そんなあたしを見ながら、『寿美子(すみこ)』――彼女は可笑しそうに笑う。


「あんたかて、『美子(みこ)』やん!」


「あ、うん、そうだけど……」


(やっぱり、同類、って思われてるのかな?)

あたしは少々胸中複雑になってしまった。


五人兄妹の末っ子として生まれた母は、祖母にしてみれば超高齢出産だったにも拘わらず、五体満足で生まれてきたし、待望の女の子だった。


狂喜乱舞だった祖母は、自分の名前から一字とって『寿子(ことこ)
』と名付けた。


そこまでなら、よくある話。


母・寿子(ことこ)は、祖母・寿美子(すみこ)と一緒に過ごせる時間が他の同級生たちより短いことを、仕方ないと納得していても寂しいと感じ、自分の子どもにはこんな思いは絶対にさせない、と結婚願望が強く、結果、十六歳で結婚。

 

十八歳の時に、あたしを産んだ。


十六歳とはいえ、幸せな結婚をした母だし、このテの話もよくあること。


ここから先が……笑えるんだか笑えないんだか微妙な話になってくる。


祖母が『寿美子(すみこ)』で、母は『寿子(ことこ)』。

 

そこにまた娘が生まれたものだから、『美』の字を使えば、娘と孫娘の名前で祖母の名前になる、と祖母と母が面白がった結果、あたしの名前は『美子(みこ)』になった。

 

あたしとしても気に入っている字面だし名前なので、問題はない。


基本、母方の人間は、『面白ければ事実なんかどうでもいい』というノリで、話を盛大に盛る傾向がある関西人。


なので、いわゆる『キラキラ・ネーム』のイトコやその子どもたちも少なからずいる。


匙加減が絶妙なので、ギリギリ世間一般でも許容範囲だと思える『キラキラ・ネーム』の親戚たちだと思っていたけれど……。


「おばーちゃんと…….同じ……名前……」


「……」


驚愕するあたしを、彼女はにこにこしながら見ている。


名前の由来も、その『いわゆる勝負服』だという華やかな着物を『今』着ている理由も…….色々と突っ込んで訊いてみたいけれど……どこから何をどう訊けば穏やかに知りたいことを知ることができるだろうか?


あたしが慎重に言葉を選ぼうと考えていると、不意に彼女が言った。

「今、暇?」


「――え?」


話題が変わってしまったので、とりあえず、話の腰を折るのは止めようと思い、あたしは答えた。


「あ、うん。こんな夜更けだし、何か手伝いに駆り出されることはないと思うから、今しばらくは暇かな……」


「じゃあ、探し物、手伝ってくれる?」


「探し物?」


「そう」


「うん……わかった」


あたしが快諾すると、彼女は嬉しそうに階段を上がった。


「え?上で?」


後に続きながら、あたしは戸惑った。


「うん。部屋には無かったから、向かいの物置きだと思うねや」


「え?部屋には無かった……って、おばーちゃんの部屋のこと?」

「そうや。……あ、美子(みこ)は聞いてへん?早い者勝ちで、何か気に入った物があったら、とりあえずよけといてええねんて」


「え?あ、そうなんだ……。聞いてなかったから、知らなかった……」


「ま、孫たちにしてみれば、欲しいと思えるモンなんて無いやろけどな」


「うん、確かに」


そんな会話をしながら、あたしたちは2階に上がった。


2階は2部屋で、祖母の部屋と大半が祖母の私物だという『物置』がある。


話には聞いていたけれど実際に足を踏み入れたのは初めてで、『物置』と呼ばれるくらいだから、とりあえず物を放り込んでいるだけの埃とクモの巣だらけでカビ臭い部屋だと覚悟していたけれど……。


「……」


きちんと整理整頓されていて、掃除もしっかりされている室内に……驚いた。


所狭しと並べられ、可能な限り押し込められている物の多さが、そこが『物置』だということを如実に物語っていた。

 

 

 

【三十秒の案内人】

 

闇。


音もなく、広さも高さも何もわからない深い深い無明の空間で独り、あたしは膝を抱えてうずくまっている。


ただ存在しているだけの、あたし。


心の中で数えきれないくらい繰り返されるのは、事実。


『たられば』的な感情は、生まれない。


それなのに、やりきれない。


ざわざわと落ち着かないココロを持て余し、あたしはまたあの光景をそっとなぞり直す。
 

気づいた時には、遅かった。どうしようもなかった。踏ん張った。意味はなかった。


そのまま衝突する。

 

重たい衝撃と、詰まる息。


全身を駆け巡る激痛に、呼吸ができない。

 

声も出ない。

 

気づいたら、あたしはあたしでなくなっていた。


一瞬の出来事。


わざとじゃない。

でも、不可抗力でもない。


「……」


苦しさにぎゅっと目をつむり、唇を噛みしめたその時――。


まぶたの裏で、閃光が走った。


同時に、耳をつんざくような爆音・悲鳴が響き渡ったような気がした。


……空耳、なら良かったのに。


現実だというその証拠に―― 

 

「仕事、だ」


威圧感のある一言が、闇に響いた。


頷くなり返事するなり……の、あたしの反応を待つまでもなく、いつものように一方的に状況が変わった。


明るく開けた視界の先には、きょとんとしている老若男女が多数いた。

 

その人数に、胸が痛む。



そこは、明るかった。


ただ明るいだけの、空間。


奇妙極まりないその場所で、人々は思わず素の自分をさらけ出していた。


あたしは軽く息を整え、『仕事』の表情になり、パンパン!と手を叩いた。


「はいはーい!注~目っ!」


底抜けに明るい大声でそう言うと、数人が驚きを隠さずにあたしを見た。


構わず、あたしは自分のペースで続ける。


「結論から言うとね、貴方たち、死んじゃったから」


「?」


大多数が、鳩が豆鉄砲を喰らったような表情になった。


あたしは声に出さずに、ゆっくり十秒数え始めた。その間に、錯乱したり発狂したり…….といった、挙動不審者が出て来なければ、経験上、比較的楽に任務遂行ができる。

ここ十年から二十年くらいかな?日本は随分と様変わりをした。


何がきっかけかは知らないけれど、良くも悪くも、自分で考え、自分で判断して行動に移し、場合よっては自分できちんと責任をとる、といった、あたしが中・高・大学生の頃は当たり前だった感覚が、最近の若者にはほとんど見られなくなった。


基本、受け身。


足掻く、ということをしない。

 

結果は覆せなくても、できることは全て全力で試した、という事実があれば、気の持ちようは変わり、気持ち新たに前を向けると言うのに……それすら気づかない。

 

思いつかない……みたいに感じる。


ま、言われるがまま素直に従ってくれる方が、こちらとしては楽だからいいんだけどね。

いつもと同じようなことを思いながら、数を数えていたら――。


ひとりぽつんと離れた場所で腕組みをしながら虚空を睨み据えていた、目つきの鋭い二十代であろう男が、我に返った様子で強く反応した。


「……どういうことだ?」


この場にそぐわない冷静さに、あたしは彼をまじまじと見つめた。

 

虚勢を張っているわけではなさそうなところに、あたしは興味を抱いた。


最終的に、コイツはどう取り乱して、どう現実を受け入れるのかな?……と。


あたしは、この場にいる全員に聞こえるよう、大きな声でゆっくりと答えた。


「聞えなかった?死んだのよ、貴方たち。全員。乗っていたバスが事故ってね」 

 

――っっ!


あちらこちらで息を飲む気配がした。


ややあってから、お決まりの、現実否定の言葉や悲鳴が飛び交い始めた。


いつものように、彼らが疲れ果てておとなしくなるまで待つあたしへ、先程の男が歩み寄って来た。


「あんた、何者だ?」


「見ての通りよ」


あたしは冷めた笑みを浮かべながら、気取った仕種で制帽に軽く手を添えた。


男は上から下まで注意深くあたしを見ながら、胡散臭そうに言った。


「なんで、冬服なんだ?」


「――え?」


思わず、あたしは面喰っていた。


「今、お盆だろ?」


「え?――あぁ……そうなんだ今――、いえ、そうね、お盆ね。お盆だから、超格安夜行バスが横行して事故が絶えないのよねー―っ」


そうだったそうだった、と、あたしは最近、『仕事』が立て続けだった理由を思い出した。

男は胡散臭さを更に強くして、言った。


「今どき、クール・ビズやってないバス会社があるとはな」


「……」


クール・ビズ


あたしは内心、首を傾げていた。


そんな言葉、聞いたことがなかったからだ。


「ま、バス会社の社則なんてどうでもいいけど。……あんた、俺らが乗ってたバスの運転手じゃないな」


男は警戒したまなざしであたしを見ている。

「へぇ~、いちいち運転手の確認してるんだ?」


あたしはますますこの男に興味を抱いた。


「当たり前だろ」


「なんで?」


「乗客は運転手に命を預けてるんだ。特に夜行バスなら、運転手がどんなのかよく見ておく必要があるだろ」


「見たところで、何も変わらなくない?どうぜ、乗るんだから」


「俺は乗らない」


「――え?」


「今は女性の運転手も増えてるから、男女の違いだけで判断はしないけど、男女問わず、頼りなさそうだったり、どことなく具合が悪そうに見えたりしたら、俺は乗らない」


「払い戻しがなくても?」


「ああ。.……『命』は『金』じゃ買えないからな」


「……やけに『命』にこだわるのね」


「……」

男はそっけなく視線を逸らした。


そこを見計らってか偶然か、我を見失っている別の若い男があたしへ詰め寄って来た。


「事故ったのか!?お前が事故ったのか?」


血走った眼差しで胸倉を掴もうとしてきたのをさらりとかわし、あたしは答える。


「違うでしょ。落ち着きなさいよ。貴方たちの運転手は、定年間近の、恰幅の良いオバチャンだったでしょうがっっ!」


一応、これでも、25歳のあたしなので、オマエは乗車の際、一瞬でも運転手を見なかったのか?と、くだらないところでイラっとしてしまった。


「見なさいよっ!」


ぱちん、とあたしが指を鳴らすと、何もない空間に異変が起きた。


誰からでも、どこからでも見やすいであろう位置に、思わず目をそむけたくなる阿鼻
叫喚な事故現場が無音で映し出された。条件反射で、皆、その先へ行こうとしたが、透明な何かに阻まれて進めない。


「なんだよ、これ!」


皆、全身全霊で叩いたり蹴ったり押したりしているが、立ちはだかっている見えない

壁は、うんともすんとも言わない。

 

 

・2020年11月22日 初版発行

小説/文庫サイズ/86ページ/1,000円(イベント価格)/1,300円(通販価格)

 

 

 

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<立ち読み>あなたの願い叶えます。ただし…… 3 ~マナ殺人事件<番外編>~

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【立ち読み】

 

血まみれ女――万凪(まな)――を背で庇うように少し移動しながら、呆然自失の芽衣(めい)へ晴明(せいめい)は言った。

 

「イタコ……あんたが、この女を殺したのか?」

 

「……」

 

芽衣は答えない。

 

ただただ、驚きと共に万凪を見ている。

 

「周りくどいのは好きじゃないんで先に言っとくけど、彼女は先日、京都でメッタ刺しにされて殺された被害者だ」

 

「……」

 

芽衣は何か言おうとしたが、うまく言葉が出てこない。

 

『魔女』は興味深そうに三人を眺めている。

 

六道珍皇寺で会った時に、言ったよな。夜の京都は魔界だ――って」

 

「……そういえば、そんなこと、言ってたわね――」

 

芽衣は必死で平静を保とうとしながら言葉を返した。

 

「京都で起こる殺人事件のうちの何割かは、魔に魅入られたか魔が差した……つまり、現世を生きる生身の人間が絶対に関わってはならない闇の世界のチカラを借りたヤツなんだよ」

 

「……」

 

「負の念が強ければ強いほど、禍々しい現実を創り出すことができる。――実際に、丑の刻参りや藁人形で呪い殺された事件もちらほらある」

 

「……」

 

「京都で不可解な殺人事件が起こって、警察が煮詰まると、たまに協力要請がくるんだよ」

 

「――陰陽師に?」

 

「そ。寺社パトロールも、その一環」

 

「……」

 

芽衣は悔しさに唇をかみしめた。

 

ふつふつと怒りがこみあげてくる。

 

「――知ってたのね」

 

芽衣は、晴明がさりげなく背中で庇っている血まみれの女――万凪――に向かって憎しみを込めた声で問うた。

 

会うなら京都で会いたい、と場所指定してきたのは――万凪だった。

 

「答えなさいよ!万凪!あなた、警察と陰陽師の関係を知っていて京都をしたんでしょっ!そして死後、陰陽師に助けを求めた――」

 

芽衣が怒りにまかせて数珠を握りしめた時、声にならない声で万凪が叫んだ。

 

【嘘つき、嘘つき、嘘つき!視えなくても問題がないなんて、大嘘!口寄せ能力も低く、視えもしない現状を打破したいって言ってたじゃない!】

 

「うるさいっ!」

 

【嘘つき!イタコとは名ばかりなことがバレて追放されそうだったから、わたしを騙した!時間をかけてわたしを信用させて……最初からわたしを殺すつもりだった!】

 

「うるさい!うるさい!」

 

【チカラのある者が視れば、芽衣のチカラなんて無いに等しいことくらいすぐにわかる!】

 

「うるさい!」

 

【――『マナ』は神秘的な力の源とされる概念で実体は持たないけれど、確かに存在している神聖な力で、自ら所有者を選んで憑くから……わたしを殺したところで『マナ』のチカラを手に入れることはできないことだって知ってたのに――】

 

万凪は血の涙を流しながら、叫んだ。

 

【なぜ……わたしを……殺したぁー―っ!】

 

彼女の怒りが突風を起こし、テーブルにある軽いメモ用紙やが風に乗って散乱した。

 

「……誰が片付けんねん」

 

『魔女のボヤキは、周囲の音にかき消されていた。

 

晴明は、自分の周りに結界でも張っているのか、涼しい顔で見守っている。

 

 

・2019年11月24日 初版発行

小説/文庫サイズ/120ページ/1,000円(イベント価格)/1,300円(通販価格)

 

(2019年11月  『第29回  文学フリマ東京』にて)
 

 

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<立ち読み>あなたの願い叶えます。ただし…… 2 ~京都修学旅行編~

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第1巻が400字詰め原稿用紙30枚の短編で、それを2011年から不定期に開催されている、『リーディングシアター(朗読劇)』用の脚本に書き換えたら人気作品となりました。

 

それを2018年11月に開催された、【第27回  文学フリマ東京】用に書き直し、文庫サイズで100ページ作品にしたら、続編希望のお声を頂戴したので、今回、第2巻を頒布します。

 

 

【立ち読み】

 

清明神社の広大な境内の一角に、立派な二階建ての建物がある。

 

安倍晴明 図書館】。

 

そこには、貴重な文献や資料から二次創作まで幅広く『安倍晴明』に関する書物が集められている。

 

入館料は千円で、チケットを見せれば開館から閉館まで途中退室、再入室可。

 

館内は飲食禁止だけれど、隣の建物はカフェなので小腹も満たせる。

 

今も根強い『晴明ファン』には至れり尽くせりの一角だ。

 

今は昔……なくらい、その空前の大ブームが何年前だったかすぐには思い出せないくらいの年月が経っているというのに、『平安時代の稀代の大陰陽師安倍晴明』は一定の人気を保っており、全国からの参拝者は細く長く絶えずに今に至る。

 

太く短い『大ブーム』でガツンと稼いで終わるのではなく、その先も細く長く『人気の神社』として存続させるため、安倍晴明の直系であり代々神社を守っている一族のなりふり構わぬ努力も功を奏しているんやな……と、初めて訪れた図書館の入口にて花梨はその商魂のたくましさに感心していた。

 

花梨は入館料を払って図書館へ入った。

 

館内案内図を見ると、文献や資料のコーナーは小さく、同じ1階には安倍晴明をモデルにした商業出版ものが集められており、2階は二次創作のみという分け方だった。

 

花梨は迷うことなく、文献コーナーへと向かった。

 

この修学旅行では、【安倍晴明 図書館】にて日本の魔術のひとつである『呪術』を調べ、西洋の『魔術』と何が違い、どこが似ているかを比較する論文を提出することにしている。

 

――いうまでもなく、そんなのは建前で、本来の目的は、安倍晴明の末裔が『安倍晴明』を名乗るだけではなく、呪術も使えるという都市伝説が本当かどうかを確かめること、だ。

 

(略)

 

1階の文献コーナーには、誰もいなかった。

 

独りが好きな花梨なので、この状況には心底ほっとした。

 

貴重であろう数々の文献は、斜め読みでも惹きこまれる。

 

思わず集中して立ち読みをしていたことにさえ気づかなかった花梨だが、不意に背中を力強く叩かれて我に返った。

 

「――っ!」

 

突然の出来事に、声も出なかった。

 

何事かと振り返ったら、見るからにチャラチャラした服装の男が居た。

 

高校生か大学生かと思われるが……チャラい服装とは裏腹に、目つきにだけは油断ならぬ鋭さと驕りが見え隠れしていた。

 

「……」

 

花梨も素の自分で対峙した。

 

「見かけない服装。修学旅行?」

 

チャラい服装に見合ったチャラい喋り方……なのに、目つきがそれらを見事に裏切っていることに気付いた花梨は、直感で、ひょっとしてこの男が末裔の『安倍晴明』なのではないかと思ってしまい、警戒する。

 

「――せや」

 

言葉少なく肯定した花梨に、チャラ男は驚いた。

 

「え?」

 

なんや?とは訊き返さず、花梨は胡散臭そうな目でチャラ男を見る。

 

「イントネーション……関西の人?」

 

「関西人が京都へ修学旅行来たらおかしいんか?」

 

「おかしいねぇ~。関西人が通う関西の学校なら、修学旅行先が関西にはならないから」

 

笑われて、花梨はぶすっとした。

 

言われてみたら、その通りだった。

 

「……」

 

まっくろくろすけを連れてたくらいだもんな。関西人だけど京都には疎い地域からの修学旅行生だな」

 

「……まっくろくろすけ?」

 

それ自体は知っているけれど、何故、アニメに登場する煤の妖怪を連れているなどと言われる?

 

ますます警戒心をあらわにする花梨さえもおもしろがっているような様子でチャラ男は答える。

 

「ここに来る前、金比羅さんに行ってきただろう?」

 

「……」

 

正解、だった。

 

金比羅さん特有の、女たちのよろしくない念の塊が、大小様々な大きさの『まっくろくろすけ』状態で背中にくっついていたからさ」

 

「……」

 

「地元の女なら、金比羅さんの正しい参拝の仕方を知ってるから、

何かを連れて出て来るなんてことはまずない。そんな命取りにもなりかねないヘマはしない」

 

「……」

 

「大抵の観光客は表面の綺麗ごとだけを鵜呑みにしてるから、ヤバイのを平気で連れ出してしまう」

 

「……」

 

「観光客が連れてきてしまう『念』のカタチは人それぞれで、たまたま、あんたの場合は、見た目が『まっくろくろすけ』なだけだったんだけど、不思議なことに――」

 

「……」

 

花梨は顔色一つ変えない。

 

「……金比羅さんから連れ出した『念』が、あんたに懐いてる感じ、だったんだよな」

 

「……」

 

「例えるなら、同病相憐れむ、みたいな」

 

「……」

 

「そして、あんだけ重たいモノを背負ってたのにどこにも影響を受けていない」

 

「……」

 

「それと、入館して配置図を確認したらまっすぐこの文献コーナーにやってきた」

 

「――よう見てんなぁ。別にうち、アヤシイ者ちゃうで」

 

「充分、怪しいだろ。国文学専攻の大学生がこの文献コーナーに来るのは、わかる。実際、一年を通じていろんな大学から学生が来てるからな。でも、あんたは違うだろ」

 

「……」

 

「あんた、何者?」

 

「……」

 

それでも花梨は顔色一つ変えず、目も反らさずその場に佇んでいる。

 

花梨は一息ついてから、手にしていた書物を本棚に返した。

 

意地の悪い笑みを隠すことなく、チャラ男に答える。

 

「うちは、そこらに居る普通の女子高生や」

 

 

・2019年5月6日 初版発行

小説/文庫サイズ/120ページ/1,000円(イベント価格)/1,300円(通販価格)

 

 

 

 

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<立ち読み>あなたの願い叶えます。ただし……

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完売

しております<m(__)m>

 

元々このお話は、400字詰め原稿用紙で30枚の短編でした。

 

ありがたいことに好評でして、2011年から不定期に開催されている『リーディングシアター(朗読劇)』の脚本執筆依頼にも繋がりました。

 

ありがたいことです。

本当に。

 

短編小説をリーディングシアター用の脚本に書き換え、新人声優さんから大御所声優さんまでいろんな方に演じてもらい、未だに再演の声を頂戴しております。

 

再演実現を夢見つつ、今回、新たに【第27回  文学フリマ東京】用に書き直し、文庫サイズで100ページの作品となりました。

 

 

【立ち読み】

 

序章

 

「Ⅰ……Ⅱ……Ⅲ……Ⅳ」

 

月明かりがかすかに差し込む窓際のテーブルで、中世ヨーロッパの『魔女』を連想させるような全身黒づくめでばっちりと化粧を施した妙齢の女が、奇妙な絵柄が人目をひくカードを、一枚一枚順番通り丁寧に並べている。

 

草木も眠る丑三つ時。

 

室内外で物音ひとつしないこの場所は、内装が内装だけに、どこかしらひんやりとした独特の空気を醸し出している。

 

ここは、彼女が主人を勤める小さな店。

 

提供しているモノは、『気休め』。

 

#002

 

あの三日月を武器にできたら、証拠を残さずにミナゴロシ可能よね……。

 

冴え冴えとした夜空に浮かぶ、鋭利な刃物のような上弦の月を見上げながら、美咲は栓無き事だと自覚しつつもそんなことを渇望していた。

 

(略)

 

「どうしたん?」

 

やっぱ怖気ついたか?とKARIが言外に匂わせているのを敏感に感じ取った美咲は、自己紹介はナシで、気になっていることを先に明確にしてしまおうと決めた。

 

「えっと……無料……ってわけじゃないんでしょ?」

 

「も~ちろんや。世の中、タダほど高くて怖いモンないで」

 

「――ぶっちゃけ、いくらかかるの?」

 

何事にも『対価』が必要、という現実に、美咲は一体いくらふっかけられるのだろうかと多少心配になってきた。

 

高校生だから貯金なんてあまりない。

 

だけど、お金なんて、その気なればどうにでもなるハズ。

幸い、通っている高校はアルバイト禁止ではないので、何年かかってもきっちり払おうと腹を括った。

 

さあ、いくらでもいいから提示してみてよ!と、美咲は言葉にせず全身で訴える。

 

その意気込みが伝わったのか、KARIは頼もしそうな笑みを浮かべた。

 

「うちが報酬として貰ってるんは、『カネ』やのうて『結末』やねん」

 

「――はっ?」

 

今、何を言われたのか理解できなかった美咲は、もう一度問い返した。

 

「今、なんて……?」

 

「この距離で聞こえへんかった?アンタ、耳、悪いん?」

 

「いや……そういうわけじゃなくて……」

 

「……まぁ、ええわ。人それぞれ、事情、あるし」

 

「いや……だから、そういうわけじゃな――」

 

「うちが報酬として貰ってるんは『カネ』やのうて『結末』やねん」

 

さっきより気持ち声を大きくし、発音も明瞭さを意識したKARIの言葉は、一言一句同じだった。

 

「あ……うん、ありがとう……」

 

やはり、聞き間違えではなかったのか――。

 

「でも、なんで?」

 

報酬が『金』ではなく『結末』だという意味がわからず、美咲は首を傾げながら尋ねた。

 

「うち、別に金に困ってへんし、興味もないねや」

 

「……?」

 

「うちな、自分が関わった件が『成功』にしろ『失敗』にしろ、どないなったか知りたいねん」

 

「……」

 

聞き捨てならない内容に、美咲は胡散臭そうなまなざしをKARIへと向けた。

 

「……ちょっと、『失敗』ってなんなのよ?『あなたの願い、叶えます』なんじゃないの?」

 

「あんた、見かけによらずいらちやなぁ~。そうコワイ顔しなさんなって。話は最後まで聞くモンやで」

 

「……」

 

「例えば、『ピサの斜塔』。知っとるやろ?」

 

「……知ってるわ」

 

「アレ、斜めになったから『失敗』やと思う人もおれば、斜めになったからこそ『成功』やと思う人もおる。どっちが正しいかなんて、断言できんやろ?それが価値観っちゅーモンちゃうか?」

 

「……確かに、一理あるわね」

 

「せやから、迎えた結末を『成功』と思うか『失敗』と思うかは、依頼主によって全然ちゃうねん。それでも必ず物事には一区切りつく時っちゅーのがあるさかい、それを『報酬』として教えてくれ、っちゅーとんねん」

 

「――そんなコトでいいんだ……」

 

法外な金額がかかることも覚悟した直後なだけあって、美咲は心底ほっとしていた。

 

そんなコトでいいなら……、と完全に美咲の気は緩み、KARIに対する警戒心も消滅していた。

 

「商談成立やな。おおきにっ!」

 

KARIは満面の笑みを浮かべながら美咲の手を掴んで、ぶんぶん振った。

 

「え?あ……ちょっと!」

 

あからさますぎる『魔女』の外見からは想像もつかないその子供っぽい笑顔と態度に、美咲はどう反応したらいいのか戸惑いを隠せずに苦笑いで応じた。

 

ひとしきり喜びを示した後、KARIはそのおちゃらけた雰囲気の余韻を残すことなく空気を切り替え、研ぎ澄まされた刃のような雰囲気を身に纏って美咲に尋ねた。

 

「で、どんな『願い』を『叶えたい』ん?」

 

 

・2018年11月25日 初版発行

小説/文庫サイズ/100ページ/1,300円(税込)

 

 

(2018年11月  『第27回  文学フリマ東京』にて)

 

 

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<立ち読み>スコール

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2005年、講談社X文庫新人賞受賞作品。

 

当時の新レーベル(F文庫)からの出版予定が、レーベル廃刊で白紙に戻る。

 

いつかどこかの出版社から紙書籍として出版しようとお蔵入りにしていたけれど、近年、愛奈のその幻の受賞作を読みたい!とのお声が途切れないので、13年ぶりに大幅加筆をしてコミティア125】にて頒布。

 

 

【あらすじ】

 

クラスメイトから距離を置く宝。

放っておけない透。

そして、親友の綾。

 

『こんな気分の時こそ、スコールに遭遇したいんだけどな……』

 

南国・シンガポール日本人学校中学部を舞台に、淡い恋心と友情に揺れ動く思春期の心情を、さわやかな筆致で描いたティーンズ・ノベル!

 

 

【立ち読み】

 

ガチャン!とテーブルが叩かれる音がした。

 

「だから、余計なお世話だって言ってるでしょっ!」

 

周囲が何事かと注目してしまったくらいの大きな声で、椅子から立ち上がった宝は透の言葉を遮るように一喝した。

 

「…………なんでそうさっきからそう人の言葉をぶったぎっ……」

 

「ぶったぎるのは透の得意技でしょ!」

 

「はあ?得意技って何だよ?オレはぶったぎった挙句、そんな、いきなり、大声出して怒鳴ったり――」

 

「えらそーにしないでよっ!」

 

「偉そう?オレが何したってんだよっ!」

 

さすがに透もカチンときたらしく、カメラは椅子の方へ避けながらも、がん、とテーブルの板面を叩きながら宝に負けず劣らずの大声で言い返した。

 

売り言葉に買い言葉のやり取りが始まった。

 

「えらそーに説教たれてたでしょうがっ!」

 

「説教なんかじゃねーよ!」

 

「だったら何、哀れみ?」

 

「だから、どうしてそうひねくれた感じで噛みついてくるんだよ!少しくらい綾以外のヤツの話にも耳傾けろよ!」

 

「だからそれが余計なお世話だって言ってんの!いちいち綾の名前出さないでしょ!彼女は関係ないでしょ!」

 

「関係なくねーだろ!」

 

「関係ないでしょ!それともなに?綾に頼まれたからわざわざこんなところに出向いてきたわけ?」

 

「そんなんじゃねーよ!それこそ、綾は関係ねぇ!」

 

「だったら――」

 

「Hey!(はいはい) 小子!(少年) Chicken   Rice?(チキン・ライス)

 

「……」

 

「……」

 

宝と透は、睨み合いと怒鳴り合いの中に割って入ってきた陽気な女性の声に虚をつかれた。

 

二人とも数秒遅れで声のいた方を向くと、そこに立っていたのは、宝に注文を取りにきたオバチャンだった。

 

「S$3(3ドルだけど)

 

「……Sorry(すみません)

 

透は女性に言った。

 

ここがキャンティーンという公共の場であったことを思い出した透は、怒鳴り合いを繰り広げてしまったことにばつの悪い思いをしていた。

 

ついでに、長居している場合でもないことを思い出し、時計を見た。

 

「I  have  no  time……(時間がないもんで……)

 

「OK(そう)。See  you(またね)

 

女性(オバチャン)はそう言って宝たちのテーブルから去った。

 

・2018年8月19日 初版発行

・2021年5月16日 第二刷発行

 

小説/文庫サイズ/270ページ/1,500円(イベント価格)/1,800円(通販価格)

 

(2018年11月  『第27回  文学フリマ 東京』にて)

 

 

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<立ち読み>ウソのようなホントの話 1 ~海外のオバケ編~

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帰国子女の作家・愛奈穂佳が、シンガポール時代とLA時代に旅した国々で遭遇したガチの心霊体験エッセイ第一弾。

 

【目次】

 

・戦争に行ったコップインドネシア

・ラスベガスでピラミッドアメリカ合衆国ネバタ州)

・首ナシ幽霊がたくさんいる世界遺産(メキシコ)

 

 

<戦争に行ったコップ>

 

体格含め、見た目は幼さが残る『小6』男児だというのに……顔つきと醸し出している雰囲気は、誰が見てもはっきりとわかるくらいの『おっさん』が……そこにいました。

 

ソイツは母、父、私をゆっくりと睨みつけてから、低い低い声で苛立たしそうに言いました。

 

「戦争に行ったコップはどうした?」

 

間違いなく、聞いたことのないおっさんの声でした。

 

「………………」

 

コレはタダゴトではない……と、母と私は臨戦態勢になりました。

 

父は、自分の理解の範疇を越えると即座に現実逃避するので、『あとはまかせた!』という目配せを私と母にしながらベッドの中へと逃げ込みました。

 

「戦争に行ったコップはどうしたと訊いている!」

 

おっさんは、さらに苛立った声と共に殺気を放ちながら身を乗り出し、再度、同じ内容を口にしました。

 

(略)

 

私が適当なことを続けようとしたら……母が、全力で私を殴りました。

 

(え?えぇ…!?)

 

言葉にならない驚きと動揺で動きが止まった私と入れ替わるような流れで、母が弟に対してマウントポジションを取りました。

 

いわゆる、『馬乗り』状態です。

 

不意を突かれたらしく、弟に憑依しているおっさんも一瞬、動揺した空気を出しましたが、次の瞬間には、殺気全開で母を睨みつけていました。

 

母も、冷たいまなざしで弟を見下ろしています。

 

(え……?何?何がどうなってる?)

 

私はどう動けばいいの?と困っていたら――

 

「!?」

 

突如、馬乗り状態の母が弟に往復ビンタをし始めました。

 

母親が小6の息子に馬乗りになって容赦ない往復ビンタを喰らわしている……

 

誇張ではなく、読んで字のごとく、『往復ビンタ』が止まらない。

 

ビンタが、往復されている……。

 

 

<ラスベガスでピラミッド>

 

古代エジプトのピラミッドをモチーフとしているホテルで遭遇した奇怪な出来事4連発。

 

部屋の電気を消そうとしたら、電気のスイッチがどこにも見当たらないので、ホテルのフロントに電話をかけ、ホテルの人に来てもらうことにした私。

 

ところが、どれだけ待ってもホテルの人はやって来ない。

 

イラっと来たので、再度、フロントへ電話をしたら……

 

「先ほど電話尾した部屋番号〇〇〇の者ですが――」

 

名乗り終えた瞬間、従業員は続きを言おうとする私の言葉に自分のそれをかぶせました。

 

「部屋番号、〇〇〇さんですよね!?」

 

切羽詰まってるというか、緊張しているというか、驚きを隠せない声でそう確認された私は……戦意喪失していました。

 

コレはタダゴトではないな、と。

 

嫌な予感に警戒しながら、丁寧な対応を心がけます。

 

「はい、そうですけど?」

 

「部屋番号、〇〇〇で間違いないですよね?」

 

「はい、間違いないです」

 

「さっきの電話の後、すぐに係の者を向かわせたのですが……係の者が、〇〇〇という部屋はなかった……と戻って来たんです」

 

「は?今、内線、繋がってますよね?」

 

「はい」

 

「ということは、〇〇〇という部屋は存在してますよね?」

 

「はい」

 

「ということは、その従業員、ウソをついたってことですよね?」

 

「それが違うんです」

 

「は?」

 

「〇〇〇という部屋が存在しないわけがないので、私もそのその従業員が嘘をついたと思い、彼に同行したんです」

 

「はい」

 

「そうしたら」

 

「はい」

 

「本当に、〇〇〇という部屋が見当たらなかったんです」

 

「は?」

 

「……」

 

「ちょっと待って!何言ってるの?私は電話機に貼られている部屋番号のシールを見ながら部屋番号を伝えたし、内線は繋がってる宿泊名簿にもここの部屋番号が記載されてるハズでしょ?」

 

「はい、間違いなく、そちらの部屋番号はこのホテルに存在しています」

 

「じゃあ、来れるでしょう?」

 

「しかし、行けなかったのです」

 

「なぜ!」

 

「その部屋が見当たらなかったからです」

 

 

<首ナシ幽霊がたくさんいる世界遺産

 

世界遺産を楽しむどころか、ジェットコースターの勢いえ見たくもない、見なくてもいいものをたくさん視てしまい、実際には存在していない血なまぐささ、よどんだ空気、腐臭なども感じてしまった私は、ほとほと疲れ果てていました。

 

滞在先のカンクンのホテル周辺を散歩してくるという両親と別れ、先にホテルの部屋に戻った私は、ベッドに横になって少しお昼寝でもしようとしていました。

 

――と、その時。

 

トントン、と肩を叩かれたような気がしたので、条件反射で振り返ったら、ドンっと突き飛ばされ、ベッドに仰向けに倒れ込みました。

 

すわ強盗か!?と私を突き飛ばした輩を確認して……現実逃避の気絶へと逃げ込みかけ、ダメだダメだダメだ!そんなことしたら取り返しのつかない事態になるやも知れぬ!と即座に思い直しました。

 

私の肩を叩き、突き飛ばし、馬乗りになる……という流れるような動きをしてくれたのは、マンガやアニメでよく見かけるような古代をイメージした衣装の首のない成人女性でした。

 

チェチェン・イッツアの世界遺産で最後に訪れた『セノーテ(聖なる泉)』に居た女性たちの一人……のようです。

 

(連れて来たのかついて来たのか……)

 

全力で嘆くことしかできない私に構うことなく、首なし成人女性の幽霊は私の首を絞めてきました。

 

同時に、金縛りです。

 

(え……!?)

 

私は、ぷちパニックです。

 

金縛りは『お約束』だとしても!

 

なんで、幽霊が人間の首を絞められるの?

 

リアルに首を絞められていて、苦しいんですけど!

 

マジでヤバイんですけど!

 

この首なし成人女性の幽霊は、本気で私を殺そうとしている。

 

(首が……欲しいのかしら?)

 

すげかえることなんてできないのに……と思わず苦笑。

 

 

・2018年5月6日 初版発行

エッセイ/文庫サイズ/92ページ/1,000円(イベント価格)/1,300円(イベント価格)

 

 

(2018年11月  『第27回  文学フリマ東京』にて)

 

 

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<立ち読み>ココロのつぶやき

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古くは、朝日新聞主催のコンクールで入選し(小3)朝日新聞に掲載されました。

 

大きなコンクールでは、【月刊誌 『My  Birthday』のポエム・コンクール】にて入選。

 

単行本『風になりたい(1995年11月30日 初版発行)』に、入選作品が収録されています。(作品名:Who am  I?)

 

それ以外でもコンクール入選多数で、雑誌に掲載されてきた作品を軸にまとめた1冊。

 

中学生の恋、高校生の恋、大学生の恋……ピュアからドロドロまでの恋心が凝縮された、万華鏡のような詩集。

 

詩集/文庫サイズ/40ページ/500円(税込)

※残部僅かで売り切りたいので、通販価格もイベント価格です。

 

 

 

(2018年11月  『第27回  文学フリマ東京』にて)

 

 

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